くもへび「連載ブログ」


■ 第一話〜天界人〜その2 2006.08.30 Wednesday 13:44
「ただいまー」
いつものように、凜は家に入ると声を出すようにしているのだが、もちろん家には誰もいない。
母親と二人暮らしな今、仕事に出ている母は夜にならないと帰ってこないのだ。

夕飯の時間にはまだ早く、凜は自分の部屋へ向かった。
二階へ続く階段を上って、向かって左が凜の部屋、その右隣は、一年前に海外へ留学に出た兄の部屋。
廊下を突き当たって奥の部屋は、父の書斎だった部屋だ。

凜は自分の部屋へ入り、そのままベッドに仰向けに倒れた。
今のこの平凡な生活をどうにか脱する方法は無いものか、そう思うとつい昼間のあの小説の事が思い起こされて、苛立ちを覚える。
凜も、あの小説の内容はちょこっとだけ知っていた。
本を直接読んだわけでは無いのだが、テレビでしきりに「今話題のベストセラー小説」として取り上げられているため、そこでピックアップされた最初の方の文章を聴いていたのだ。
『平凡な生活に飽きてしまった女子高生の目の前に、ある日突然天界人が降ってきた』
『まさか自分の身にこんなことが起ころうとは、思いもしなかった』
もちろん良くある物語のパターンなのだが…。
主人公の人物像が凜自身と重なって、小説の中では、彼女は天界人と恋に落ちる事によって世界が大きく広がっていくのに、自分は毎日平凡な生活をし続けなければいけないかと思うと、無性にその主人公に苛立ちを覚えるのだ。

空はまだ明るい。
凜はため息をつくと、ごろりと横になった。
ベランダのガラス戸越しに、鳥が飛んでゆくのが見えた。










「ガシャーン!」
大きな音がして、凜はとっさに飛び起きた。
そしてそのあまりの勢いに、ベッドから転がり落ちた。
いつの間に寝てしまったのか、気がつくともう外は真っ暗になっている。
部屋の電気も付けていなかったので、何が起きたのか全く見えない。
かろうじて見えるのは、粉々になったベランダのガラス戸の破片と、そこにいる人型の黒い影。
「誰っ!?」
凜は警戒しながら、しかし強く言った。
すると黒い影はビクッと動いた。
「……やべ」
小さく聞こえた声は、確かに男の声だった。
凜は素早く立ち上がり、部屋の電気のスイッチを入れた。

果たして、そこには急に点灯する光に身体をすくめる者が立っていた。
顔を覆うその者は、髪はバサバサとした金色をしていて、背中からは見事に真っ白な翼が生えている。
そして格好は……なんと全裸!?

凜は、色んな意味で固まった。

一瞬、変質者なのかと思ったのだが、背中から生える見事な翼に、目を奪われた。
男は光に慣れたようで、顔を覆う腕を下げ、少し体を払うような仕草をした。
瞳はコバルトブルーで、整った顔立ちをしている。年齢は、凜と同じくらいに見える。

そして男はキョロキョロと辺りを見回した後、急に険悪な顔つきをした。
「事故にしても…俺の姿、見たよな…お前」
「やばいぞ、これは」
男は考え込むようにあごに指をつけてつぶやいた。
「ちょっと…なんなの…勝手にガラス突き破ってきて、何言ってるの?それにあなた誰よ?」
凜は、寝ている所を急に起こされて、しかも意味不明な自体に巻き込まれた事に対し、少しイライラしていた。
「俺は、天界人。お前も存在くらい知ってるだろ?」
「えっ?」
「そして、天界人ってのは、自分の姿を人間に見られちゃいけないんだよ。もし見られたら…」
そう言って、男はまた考え込むようにした。
「見られたら何なの…」
凜は不安そうに言い、そして少し身構えた。

「もし見られたら、そいつを殺さなくちゃならない」
男は、青い目を少し細めた。
自分の背筋に冷たいものが走るのを感じた凜は、自分の部屋の出口へ向かって走り出した。
しかし、逃げることを察した男は、その大きな翼を広げ室内を素早く舞い、部屋の出口と凜の間に立ちふさがったのだった。
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