くもへび「連載ブログ」


■ 第二話〜海底人〜その5 2007.07.03 Tuesday 13:33
海流から離れるのには、さほど苦労することは無かった。
流されている時はカナリのスピードで進んでいけるのだが、その流れに入る時も、出るときも、意外とスムーズにこなすことが出来た。

光の点でしか無かったそれは、今や目の前に大きくそびえる巨大な城となり、白い珊瑚礁で出来たいびつな建物の、所々に空いている窓のような穴からは光が漏れていた。
建物の周りには沢山の魚や、海底人が泳いでいる。

「ここが、海底界よ、凜ちゃん。鱗を飲んでない異界人だったら、とっくに水圧で潰されているところね。」
リミエルは説明しながら、建物の上の方の窓…いや、それぞれは入り口なのかも知れない、その穴へ向かって泳いだ。
色んな場所で、同じように海底人が出たり入ったりしている。
「すごい…大きな家…ここに海底人みんなが住んでるの?」
凜はすこしごつごつする白い壁を触りながらリミエルに訪ねた。
「ううん、ここは海底界でも中心の場所なの。だからこの海の別の場所には、それぞれまた街があるのよ」
そう言って、リミエルは一つの家(?)の中へ案内した。
珊瑚で出来たテーブルやイス、そして部屋の中には海草も揺れていて、おとぎ話チックな作りになってはいるが、生活感がある。

リミエルは入り口を岩で塞ぎ、その後、何か大きな渦巻きの貝殻を、ペコッと叩いた。
すると貝殻からはぶくぶくと泡が出てきて、あっという間に凜達の居る部屋から水が引いていった。
壁が全て珊瑚で出来ている為、水はけも良い。
「何だか…ホント夢みてる見たい…」
凜は一部始終を見て、思わず口に出した。

「さぁフレディ、話してもらおうかな。今回ここに来た理由は、私と海底界を凜ちゃんに案内するだけじゃないんでしょ?」
リミエルが切り出した。
「えっ…」
突然言われて、フレディは戸惑っている。
「顔に書いてあるのよね。フレディ、私たち何年付き合ってると思ってんの?」
そう言ってリミエルは目を細めて、にやにやと笑った。

「凜ちゃん、海底界ってね、すごく有名な式場がいっぱいあるのよ〜。天界人だってよく利用する程…。景色もキレイだし、お料理も美味しいし…」
「式場…?」
そう言って凜はハッとなった。

(は、早すぎるよ。結婚式なんて…。私たちまだ……)

「リミエル!」
フレディは顔を少し赤らめながら強く言った。
明らかに照れ隠しなのはバレバレだ。
「大丈夫だって、一番素敵な式場を手配してあげるから♪」
妙にノリノリなリミエルに、フレディはため息を吐いた。


凜は、困った顔をしながらも、なんだか自然と顔がほころんでしまっていた。
周りを見渡せば全く見知らぬ世界。
世間で噂になっている異世界に居るのだ。
もし、あのときフレディが家に飛び込んで来なければ…。
そもそも、フレディが凜に一目惚れをしていなければ…。

ふと、凜は頭の中に疑問が浮かんだ。
リミエルとフレディが、どちらの世界が全ての元になったかを言い合いしていた時、フレディは「人間と海底人は、掟を破って翼を奪われた者達」と言っていた。
あのときは言い合いを止めようと必死になっていて深く考えられなかったが、
これって、天界人が人間に姿を見られても、結婚出来ず、殺しもしなかった場合、翼を奪われるという事なのだろうか。
と言うことは、もし自分がフレディと結婚しなかった場合…。
あのフレディの見事な白い翼は、永遠に失われてしまうのだろうか。

今はまだ、自分がどんな気持ちなのか整理がつかない。
確かに好きだと言われて嬉しい気持ちはあるが…それは自分がフレディの事を好きだと言えるのだろうか。
自分の気持ちも分からないままでいるのは失礼だろう…。

凜は不安にかられ、横にいるフレディの腕を掴んだ。
「フレディ…」
「うん?」
フレディは凜に気づいて、顔を向けた。
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